開院後間もない医療法人化について

個人クリニックを開業してから数年経ち、軌道に乗ってきた場合、医療法人化を検討することがあります。

医療法人化は節税を考慮して行うことが多いかと思われますが、節税のみを考えて法人化に踏み切ることについては慎重になるべきです。

この点以下について、検討する必要があります。

①個人クリニック時代の借入金を医療法人に引き継ぐことができるか

開業の際など個人クリニックの時代に金融機関などから借り入れを行っている場合、無条件で借入金全額を法人に引き継ぐことができるわけではありません。

というのも、引き継ぐことができるのは、設備資金(内装工事や医療機器の取得のために借り入れた分)のみで、運転資金については引き継ぐことができないためです。仮に、法人化の際に多額の運転資金にかかる借入金が残っていた場合、法人化後は役員報酬として法人から受け取る給料から返済し続けなければなりません。

つまり、借入金の返済は、お金は出ていくものの所得から差し引くことはできないため、院長ご自身の生活を圧迫する可能性があります(借入金の返済+役員報酬の額面をもとに計算された多額の所得税の支払が必要です)

よって、運転資金にかかる借入金がゼロか、ほとんどない状態で法人化することが理想と考えられます。

 

②医療法人に蓄積された資金の活用方法について

個人クリニックの時代は、クリニックの口座に蓄積された資金は自由に出し入れすることができますが、法人化後は自由に出し入れをすることができなくなります。

これは、医療法人は配当が禁止されており、かつ、院長は法人化後は理事長という役員になり、役員に対する報酬は、原則として毎月定額でなければならないためです(一年ごとに改定することは可能です)

さらに、医療法人を解散する際、何も対策をしなければ医療法人に蓄積された財産は国または地方公共団体などに帰属することになってしまいます。

よって、後継ぎの確保を含めて、院長の引退時期に至るまでの対策を検討する必要があります。具体的には毎期の利益管理と、退職金規定の整備と、退職金確保のための法人保険の活用などが挙げられます。

 

医療法人化は顧問税理士に相談することが多いと思われますが、税理士は基本的には節税のシミュレーションだけしかやってくれないケースも多く(節税のシミュレーションすらやってくれない税理士もいるようです)、院長の引退までを踏まえて幅広い視点で検討する必要があります。