承継によるクリニック開業

新規にクリニックを開業する場合、ゼロからの立ち上げが通常ですが、最近ではクリニックの後継者不足により、承継による開業が増えています。

具体的には、親族ではない第三者から、クリニックの経営を引き継ぐケースです。以下、引き継がれるクリニックが①個人クリニックの場合、②持分ありの医療法人の場合、③持分なしの医療法人の場合に分けて解説いたします。

①個人クリニックからの引継ぎによる開業

基本的には、取引形態としては医療機器や設備等の資産の譲渡取引になります。よって、引き継ぐ側のドクターはそれらの時価の金額を引き継ぎに際して支払い、負債も合わせて引き継ぐ場合は、負債の金額を資産の時価から控除した金額を支払うことになります。

ただし、通常は営業権(のれん)を上乗せして支払うことになります。ここでの営業権(のれん)とは、クリニックの知名度や既存患者、好立地などの価値を表したもので、企業間でのM&A(合併、買収等)でも通常買い手から売り手に支払われるものです。

 

②持分ありの医療法人からの引継ぎによる開業

引き継ぐ側のドクターが引き継がれる側のドクターへ支払う金額の考え方は、①と同様ですが、医療機器や設備等の資産や負債の譲渡ではなく、「出資持分」の譲渡となります。出資持分とは、医療法人の所有権及び議決権を表すものです。出資持分を保有する人を「社員」といいます。一般的な意味での社員ではなく、いわゆるオーナー(株式会社でいうところの株主)を意味します。

医療法人の社員となり、法人の経営権を取得することをもって事業を承継するという考え方です。

 

③持分なしの医療法人からの引継ぎによる開業

こちらは少し特殊なケースです。平成19年4月1日以降設立された医療法人は、すべて持分なしの医療法人となります。「持分なし」であるため、社員には財産権が認められていません(議決権はあります)。

よって、形式的には社員が交代すれば、承継が完了し、引き継ぐ側のドクターが①②に掲げられているような譲渡価額を支払う必要はありません。

ただし、それでは引き継がれる側のドクターは、社員たる地位を無償で譲渡したということになってしまいますので、通常は医療法人から引き継がれる側のドクターへ退職金が支払われることになります。

 

以上のように、単にクリニックの承継といっても複数のパターンがあり、それぞれに応じて承継の法的な扱いも変わってくることになります。