公庫融資と制度融資及び民間金融機関の実情

今回は、少し視点を変えてお話します。公庫融資と制度融資、どちらが多く利用されているかというと、客観的なデータがあるわけではありませんが元銀行員の私の感覚からすると公庫融資の方が多いように思われます。

 

これは、金融機関側の事情が絡んできます。日本政策金融公庫は100%政府出資の政策金融機関であり、中小企業を支援することを理念の一つとしており、民間企業のように利益至上主義ではないため、創業融資にも積極的です。また、返済を行うのは民間の銀行口座を介しますが窓口や資金の出し手は日本政策金融公庫であり、公庫の職員にも融資のノルマがあるため、彼ら一職員としても貸し出しを行うこと対して積極的です(過剰なノルマから民間金融機関への返済が滞っている不良先に対して追い貸しするという問題も起こしていますが、、、)。また参考までに同じ政府系金融機関として商工組合中央金庫、通称「商工中金」があり、中小企業をメインに融資を行っていますが、こちらはある程度軌道にのった中小企業をターゲットとしており、また、市況に影響されやすい建設業には基本的に融資をしない方針をとっていたりと、間口を広くしている政策金融公庫とは異なり、創業融資を特別に行っているわけでありませんのでご留意ください。

 

一方で、地方自治体の制度融資に関しては、地方自治体が利子補給や保証料を補助し、信用保証協会が保証するという形をとっていますが、窓口は民間金融機関になります。地方自治体側にもちろんノルマはありません。また、民間銀行の職員にとっては、すべての銀行を知っているわけではないので断言はできませんが、自治体の制度を活用した融資はマル保(保証協会付き融資)の実行額や融資の平残(業績機関における貸出残高の平均)の一部を構成することにはなりますが、それ自体のノルマはないため積極的に行おうというインセンティブが発生しないのです。実は私も融資を担当しておりましたが、地方自治体の制度融資にはほとんど関わったことはありませんし、制度融資自体のノルマもありませんでした。

また、数年前に社会現象となったドラマ「半沢直樹」で銀行の黒い部分が描かれていたように、通常銀行員は融資項目だけではなく様々な項目の高いノルマが与えられています。以前よりは改善されてきましたが、ノルマ達成への大きなプレッシャーや時間的制約などから、手続きが煩雑であり、金額としては小口となる創業融資への対応はあまりしたくないというのが現場の実情です。しかしながら、長い目で見れば将来的にはある程度の顧客になる可能性があり、銀行の公共性や使命を考えると、是正されるべき姿勢であり、もちろん、皆様のような創業者を本気で支援したいと考えている銀行員の方も多くいらっしゃいます。

この傾向はメガバンクや規模が大きい銀行ほど顕著であり、活動エリアが狭く地域に根差した信金や信組の方が、制度融資に対して積極的な姿勢を見せています。

また、地銀や信金といった地域金融機関の方が親身に付き合ってくれる場合が多く、入り口としての敷居が低く利用しやすいですが、一方で基礎体力のあるメガバンクや規模の大きい銀行の方が、平均すると低い金利で借り入れできるのも事実です。よって、1つの金融機関のみと取引するのではなく、将来も見据えてまずは預金取引などから複数の金融機関とバランスよく付き合っていくのが良いでしょう。